経営戦略といえばマイケルポーターです。1980年代の発表事項はもはや古典と言えますが、2000年代以降も自分の理論は現代にも適用できると主張して、たまにHBRに寄稿しています。
この記事ではビジネスで経営戦略を考える人の参考になるポーターのエッセンスをギュッと凝縮してお伝えします。
(ポーターの言っていることをブログ記事にギュッと圧縮できるわけがないと思ってはいますが、割り切りのための表現です。念のため)
ポーターはよくポジショニングビューだと言われます。外部環境を考えることを中心として戦略を考えるのです。簡単に言うと、ずっと企業が儲けていくためには、外部環境を考えることが重要だという考え方です。
このポジショニングビューという言葉も理解までの正しい論理というものがあるので、少し説明します。
企業は競争にさらされているというのは、経営戦略に携わる人間の共通認識でしょう。ポーターの理論は『競争はある、でも競争の仕方を間違えていませんか?』というところからスタートします。
そして、競争の目的は収益をもたらす確固たる地位を業界で確立することだ!とポーターは言います。この地位という言葉がポーターの言うポジショニングで、これがポーターがポジショニングビューと言われるゆえんです。
それでね、ポーターの言う外部環境は「業界」なわけですが、その業界は顧客、つまり自社商品の買い手と自社の商品との関係を中心として語られます。
これがいわゆるファイブフォースモデルです。5つの力を中心に考えようという業界分析です。では、業界はなんのために分析するかといえば、業界は自社に収益をもたらすぐらい魅力的なのか、どうやって収益をもたらす地位を確立するのか?という答えを出すために分析します。
つまり、競争にどう勝つのか?どう勝って収益を自社にもたらすのか?のために分析するわけです。
お客さんである商品の買い手、競合企業、新規参入者、代替品提供者、自社のサプライヤーの大きく5つ関係者の収益を巡る競争を中心に見ていくので、ファイブフォースモデルと言います。
そして、関係者間の競争が弱い業界が魅力的だ、と。これはポーターの考えの特徴を如実に示しています。競争はあるけど、敵が弱い業界が儲けやすい。言われてみれば当たり前ですが、ポーターはこの考えを徹底しています。
そして、ポーターは勝ち方は大きく分けて4つしかないと言います。
差別化するか低価格にするか。それを広い範囲でやるか、すごく狭い範囲でやるか。この大きく4つです。
それでね、よく「広い範囲での差別化」が語られるのですが、なかなか理解が難しい概念です。ポーターの言う差別化は『価格以外のあらゆるの要素で、お客さんに欲しいと思わせる何か』です。
商品の目先がちょっと違うとか、マーケティングのやり方とかそんな小さな問題ではなく、総合的にお客さんが低価格じゃなくても欲しいと思うためのあらゆる活動の結果としての差別化なのです。
そんなものはあるのだろうか?と思ったりします。広い範囲で競争する企業の差別化なんてあるのか?と。しかし、ポーターはあると言います。
BMWやアップルやフォーシーズンズホテルが代表例だ!と。
BMWやフォーシーズンズは少しニッチな気もしますが、アップルのアイフォンは広い範囲で確かに戦っている。そして、確かに高収益です。
ユニークなポジションをアップルが総合的に確立しているというような話はよくあるのでここでは割愛します。選択と集中の重視、ジョブズ復帰時のプリンタや情報端末からの撤退。デザインを出発とした商品開発の考え方。フォックスコンを使った効率のいいサプライチェーン。顧客体験の重視。挙げたらきりがありません。
ただね、このアップルのユニークな全体が差別化をなしているとポーターは言います。エッセンスを一言で語れたら広い範囲での差別化ではないんですね。
もしくはファストファッションでいうZARAとかですね。ZARAも差別化の説明が長いですよね。短い商品開発リードタイム、生産の絞り込み、多品種の生産、情報共有など。
長々と成功要因について語っている記事があったら、広い範囲の差別化だ!と思えばいいのです。
つまり、広い範囲の差別化はうまく表現できません。お客さんが低価格でなくても欲しいと思う商品を総合的に実現できていれば差別化に成功していることになる、という結果として語られるものです。
ただ、他の勝ち方は簡単です。マスマーケットで低価格で勝つ。ニッチでユニークな価値を出して勝つ、ニッチで低価格で勝つ。これしかない。
多くの企業はマスマーケットで低価格で勝つか、ニッチでユニークな価値で勝つというやり方をとっています。だから、この2つの納得感はあるでしょう。安かった頃のユニクロはマスで低価格で勝っていましたし、中小企業の多くはニッチでユニークな価値を出しています。いわゆる日本のグローバルニッチ企業は有名ですよね。
それでね、この「お客さんが欲しいと思うこと」を価値というわけですが、ファイブフォースモデルはその価値を中心にして業界が成立していると見ます。そして、その価値を提供する時に、その業界の中でボトルネックになっている部分に収益が集中します。
当然、ボトルネックは移動しますから、収益が出る場所は移動する。もっと言えばお客さんが欲しいと思う何かも少しずつ変わっていくから、業界で出る収益も変わっていく。
その変化の中で、収益の取り合いを価値を中心として5つの関係者がしているというのがファイブフォースモデルです。
それで、この「お客さんが欲しい何か=価値」というものを業界がみんなで生産していると考えます。
プロセスごとにお客さんが欲しいと思う何かの生産の1つの価値要素を構成していると考えて、企業活動を分析する。
そうすると、企業の内部の活動や、業界の活動が違った形で見えてくる。そして、競争優位がどのように実現されているかが分析できるというわけです。
この分析の考え方をバリューチェーンと言います。
この価値を生み出すバリューチェーンは、大きく分けて2つあります。メインのプロセスと、メインのプロセスの支援するプロセスの2つです。
メインのプロセスとは、いわゆる調達、生産、流通、販売、サービス提供などの直線的にとらえうるプロセスです。しかし、企業の中には、総務や人事、情報システム部門などがあります。このいわゆるバックオフィス的な部門を、支援のプロセスとして捉えるわけです。
それでね、どのプロセスがお客さんが欲しいと思う何かを生産するのに大きく貢献しているか?というのを見ていくと多くのことがわかってくる、とポーターは言うわけです。
業界全体のバリューチェーンをポーターはバリューシステムと呼んでいます。お客さんが欲しいと思う何かを中心に考えた時に、業界全体でどんな価値の生産をしているかを分析して、自社はその中でどんな価値を生産しているかを考えるための枠組みです。
その役割分担、自社のバリューチェーンのバリューシステムの適合の仕方を考えていくことが競争優位のヒントになると言っています。
広い範囲の差別化では、総合的な活動によって、お客さんが低価格以外の要素で買いたくなるわけですから、バリューチェーン全体に少しずつその理由を求めることになります。
例えば、1920年代にGMがローン形式で自動車の販売を始めて、フォードはそれに追随しなかったので、GMがシェアを伸ばしたというようなケースがあります。
バリューシステムの中で、買い手は、まとまった購入金額をあらかじめ用意できなくても、自動車が買いたかったわけです。しかし、ローンがなければそれは実現できない。
一言でローンで車を売るといっても、用意しなければならないビジネスプロセスは膨大です。与信の審査から、お金の回収方法、焦げ付きの処理方法など、面倒なプロセスがたくさんあります。
そのプロセスを自動車業界に持ち込むことで、GMは競争優位を手にしました。何かしらの新たな価値をお客さんに提供するには、それ用のプロセスがないといけないということですね。そして、そのプロセスでまとまったお金が現在無くても自動車が買えるという現在では一般的な状況となりました。
このようなプロセスによる価値の提供は多岐に渡ります。その総合的な価値で競争相手に勝つ。これがポーターの競争戦略ですね。
長いですがまとめますと、
・ポーターは競争が大事だと言った
・企業は持続的に収益をもたらすような確固たる地位を築くために競争をすべき
・業界は競争が緩いほうが収益が出るが、業界は5つの関係者の争いと見るべき
・この5つの関係者の争いがファイブフォースモデル
・勝ち方は4つしかない
・差別化と価格優位、広い範囲でやるか狭い範囲でやるかの4つ
・差別化は価格以外の要素でお客さんが欲しいと思う何かを作り出すこと
・その地位をうまく築くには、企業内部で「お客さんが欲しいと思う何か=価値」をうまく作り出さなければいけない
・この企業内部の価値の生み出し方を分析するのがバリューチェーン
・業界全体で価値を生産すると見るのがバリューシステムで、バリューチェーンはバリューシステムの一部
・バリューチェーンがバリューシステムの中でどのような役割になっているかを分析するのが、勝つためのヒントになる
・・・ぐらいです。長いですね。すいません。
しかし、これがポーターのエッセンスと言っていいでしょう。
それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。
この記事ではビジネスで経営戦略を考える人の参考になるポーターのエッセンスをギュッと凝縮してお伝えします。
(ポーターの言っていることをブログ記事にギュッと圧縮できるわけがないと思ってはいますが、割り切りのための表現です。念のため)
ポーターはよくポジショニングビューだと言われます。外部環境を考えることを中心として戦略を考えるのです。簡単に言うと、ずっと企業が儲けていくためには、外部環境を考えることが重要だという考え方です。
このポジショニングビューという言葉も理解までの正しい論理というものがあるので、少し説明します。
企業は競争にさらされているというのは、経営戦略に携わる人間の共通認識でしょう。ポーターの理論は『競争はある、でも競争の仕方を間違えていませんか?』というところからスタートします。
そして、競争の目的は収益をもたらす確固たる地位を業界で確立することだ!とポーターは言います。この地位という言葉がポーターの言うポジショニングで、これがポーターがポジショニングビューと言われるゆえんです。
それでね、ポーターの言う外部環境は「業界」なわけですが、その業界は顧客、つまり自社商品の買い手と自社の商品との関係を中心として語られます。
これがいわゆるファイブフォースモデルです。5つの力を中心に考えようという業界分析です。では、業界はなんのために分析するかといえば、業界は自社に収益をもたらすぐらい魅力的なのか、どうやって収益をもたらす地位を確立するのか?という答えを出すために分析します。
つまり、競争にどう勝つのか?どう勝って収益を自社にもたらすのか?のために分析するわけです。
お客さんである商品の買い手、競合企業、新規参入者、代替品提供者、自社のサプライヤーの大きく5つ関係者の収益を巡る競争を中心に見ていくので、ファイブフォースモデルと言います。
そして、関係者間の競争が弱い業界が魅力的だ、と。これはポーターの考えの特徴を如実に示しています。競争はあるけど、敵が弱い業界が儲けやすい。言われてみれば当たり前ですが、ポーターはこの考えを徹底しています。
そして、ポーターは勝ち方は大きく分けて4つしかないと言います。
差別化するか低価格にするか。それを広い範囲でやるか、すごく狭い範囲でやるか。この大きく4つです。
それでね、よく「広い範囲での差別化」が語られるのですが、なかなか理解が難しい概念です。ポーターの言う差別化は『価格以外のあらゆるの要素で、お客さんに欲しいと思わせる何か』です。
商品の目先がちょっと違うとか、マーケティングのやり方とかそんな小さな問題ではなく、総合的にお客さんが低価格じゃなくても欲しいと思うためのあらゆる活動の結果としての差別化なのです。
そんなものはあるのだろうか?と思ったりします。広い範囲で競争する企業の差別化なんてあるのか?と。しかし、ポーターはあると言います。
BMWやアップルやフォーシーズンズホテルが代表例だ!と。
BMWやフォーシーズンズは少しニッチな気もしますが、アップルのアイフォンは広い範囲で確かに戦っている。そして、確かに高収益です。
ユニークなポジションをアップルが総合的に確立しているというような話はよくあるのでここでは割愛します。選択と集中の重視、ジョブズ復帰時のプリンタや情報端末からの撤退。デザインを出発とした商品開発の考え方。フォックスコンを使った効率のいいサプライチェーン。顧客体験の重視。挙げたらきりがありません。
ただね、このアップルのユニークな全体が差別化をなしているとポーターは言います。エッセンスを一言で語れたら広い範囲での差別化ではないんですね。
もしくはファストファッションでいうZARAとかですね。ZARAも差別化の説明が長いですよね。短い商品開発リードタイム、生産の絞り込み、多品種の生産、情報共有など。
長々と成功要因について語っている記事があったら、広い範囲の差別化だ!と思えばいいのです。
つまり、広い範囲の差別化はうまく表現できません。お客さんが低価格でなくても欲しいと思う商品を総合的に実現できていれば差別化に成功していることになる、という結果として語られるものです。
ただ、他の勝ち方は簡単です。マスマーケットで低価格で勝つ。ニッチでユニークな価値を出して勝つ、ニッチで低価格で勝つ。これしかない。
多くの企業はマスマーケットで低価格で勝つか、ニッチでユニークな価値で勝つというやり方をとっています。だから、この2つの納得感はあるでしょう。安かった頃のユニクロはマスで低価格で勝っていましたし、中小企業の多くはニッチでユニークな価値を出しています。いわゆる日本のグローバルニッチ企業は有名ですよね。
それでね、この「お客さんが欲しいと思うこと」を価値というわけですが、ファイブフォースモデルはその価値を中心にして業界が成立していると見ます。そして、その価値を提供する時に、その業界の中でボトルネックになっている部分に収益が集中します。
当然、ボトルネックは移動しますから、収益が出る場所は移動する。もっと言えばお客さんが欲しいと思う何かも少しずつ変わっていくから、業界で出る収益も変わっていく。
その変化の中で、収益の取り合いを価値を中心として5つの関係者がしているというのがファイブフォースモデルです。
それで、この「お客さんが欲しい何か=価値」というものを業界がみんなで生産していると考えます。
プロセスごとにお客さんが欲しいと思う何かの生産の1つの価値要素を構成していると考えて、企業活動を分析する。
そうすると、企業の内部の活動や、業界の活動が違った形で見えてくる。そして、競争優位がどのように実現されているかが分析できるというわけです。
この分析の考え方をバリューチェーンと言います。
この価値を生み出すバリューチェーンは、大きく分けて2つあります。メインのプロセスと、メインのプロセスの支援するプロセスの2つです。
メインのプロセスとは、いわゆる調達、生産、流通、販売、サービス提供などの直線的にとらえうるプロセスです。しかし、企業の中には、総務や人事、情報システム部門などがあります。このいわゆるバックオフィス的な部門を、支援のプロセスとして捉えるわけです。
それでね、どのプロセスがお客さんが欲しいと思う何かを生産するのに大きく貢献しているか?というのを見ていくと多くのことがわかってくる、とポーターは言うわけです。
業界全体のバリューチェーンをポーターはバリューシステムと呼んでいます。お客さんが欲しいと思う何かを中心に考えた時に、業界全体でどんな価値の生産をしているかを分析して、自社はその中でどんな価値を生産しているかを考えるための枠組みです。
その役割分担、自社のバリューチェーンのバリューシステムの適合の仕方を考えていくことが競争優位のヒントになると言っています。
広い範囲の差別化では、総合的な活動によって、お客さんが低価格以外の要素で買いたくなるわけですから、バリューチェーン全体に少しずつその理由を求めることになります。
例えば、1920年代にGMがローン形式で自動車の販売を始めて、フォードはそれに追随しなかったので、GMがシェアを伸ばしたというようなケースがあります。
バリューシステムの中で、買い手は、まとまった購入金額をあらかじめ用意できなくても、自動車が買いたかったわけです。しかし、ローンがなければそれは実現できない。
一言でローンで車を売るといっても、用意しなければならないビジネスプロセスは膨大です。与信の審査から、お金の回収方法、焦げ付きの処理方法など、面倒なプロセスがたくさんあります。
そのプロセスを自動車業界に持ち込むことで、GMは競争優位を手にしました。何かしらの新たな価値をお客さんに提供するには、それ用のプロセスがないといけないということですね。そして、そのプロセスでまとまったお金が現在無くても自動車が買えるという現在では一般的な状況となりました。
このようなプロセスによる価値の提供は多岐に渡ります。その総合的な価値で競争相手に勝つ。これがポーターの競争戦略ですね。
長いですがまとめますと、
・ポーターは競争が大事だと言った
・企業は持続的に収益をもたらすような確固たる地位を築くために競争をすべき
・業界は競争が緩いほうが収益が出るが、業界は5つの関係者の争いと見るべき
・この5つの関係者の争いがファイブフォースモデル
・勝ち方は4つしかない
・差別化と価格優位、広い範囲でやるか狭い範囲でやるかの4つ
・差別化は価格以外の要素でお客さんが欲しいと思う何かを作り出すこと
・その地位をうまく築くには、企業内部で「お客さんが欲しいと思う何か=価値」をうまく作り出さなければいけない
・この企業内部の価値の生み出し方を分析するのがバリューチェーン
・業界全体で価値を生産すると見るのがバリューシステムで、バリューチェーンはバリューシステムの一部
・バリューチェーンがバリューシステムの中でどのような役割になっているかを分析するのが、勝つためのヒントになる
・・・ぐらいです。長いですね。すいません。
しかし、これがポーターのエッセンスと言っていいでしょう。
それでは今日はこのあたりで。次回をお楽しみに。
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